盲導犬と私たち

                                    
 
【盲導犬と私たち】




  
福岡県盲人協会会長  田代浩司 
  

この度、盲導犬の育成事業に心血を注いで来られた緒方豊吉氏の業績を顕彰する著書『光の騎士となれ』が刊行の運びとなり、心からお祝い申し上げます。
 申すまでもなく、盲導犬は私たち目を失った者にとってかけ替えのない伴侶であります。盲導犬によって勇気づけられ、閉じこもりがちだったのが進んで外に出るようになり、自立し、幸せをつかみ取った視覚障害者が数多くいます。
 永い間、杖に頼る時代がつづきました。もちろん、杖には杖の良さがありますが、杖で歩くのはとても神経を使い、疲れるものです。また、介添人を伴って歩くのは、たとえ家族であっても気兼ねがあるものです。ちょっと外に出たいと思っても、ついあきらめてしまうこともあります。
 盲導犬は、そんな不便から私たちを解放してくれました。誰にも気兼ねなく、思った時間に、思った所に行ける。ほんとに素晴らしい伴侶であります。「外を歩けるようになれば視覚障害者の問題の半分は解決したようなもの」といわれますが、そういう点でも盲導犬は私たちに大きな光をもたらしてくれました。
 しかも、盲導犬は優しく、かしこい生き物です。人間と心を通い合わせることができます。主人が寂しいときは励ますような顔をし、うれしいときは尻尾を振って共に喜んでくれます。主人は孤独に陥らなくてすむのです。時には人間以上の気持ちの交流を感じることさえあるのです。
 本書の中で、視覚障害者の藤井健児牧師が盲導犬ロックとの共同訓練で初めて街の雑踏の中を歩き切り、思わず「ロック、ありがとう。もう、君におまかせだ」と犬に抱きつく場面が出てきます。視覚障害者が生きる希望を取りもどす瞬間です。
 緒方理事長は、そんな盲導犬を私たちのために、もう九十頭以上も無償貸与して下さいました。もちろん、多くの人たちの支援、指導があってのことですが、十余年の長きにわたって育成事業の先頭に立たれてこられた緒方理事長に改めて感謝いたします。
 九州は永い間、盲導犬の空白地帯でした。九州で盲導犬を希望する視覚障害者は、遠く関東、関西まで出かけて、一カ月近い泊まり込みの訓練を余儀なくされていたのです。それが福岡盲導犬協会が設立され、次いで前原市に訓練センターが建設されて、自前の育成が可能になりました。しかも、現在では広く九州、中国の視覚障害者の要望にこたえて委託育成するまでに成長したと聞いております。
 現在、福岡県下には約二万八千人の視覚障害者がいます。この中には盲導犬を貸与されれば行動が広がると思われる人がまだたくさんいるはずなのに、残念ながら、その数はまだ少数です。盲導犬のことをよく知らない人、介助役を家族に頼れる人、家の広さの問題など、理由はさまざまですが、盲導犬をもっと普及させるためには盲導犬がいかに便利で、しかも無償貸与で、使い方もそれほど難しくないことなどを、もっとPRする必要があるかもしれません。
 盲導犬育成はじつに多くの方々の苦労、善意の上に成り立つ事業であります。私たちは日頃から皆様方のご努力に感謝しておりますが、ここに改めて視覚障害者を代表して、心からの謝意をお伝えするとともに、今後とも格段のご支援をお願いする次第であります。


平成十年秋


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